「障害福祉事業を始めるために、良さそうな物件を見つけた」
「不動産会社から早めに契約するよう勧められているが、この物件で本当に開業できるのだろうか」
障害福祉事業の開業準備では、物件選びが非常に重要です。
家賃、広さ、立地が希望に合っていても、その物件で障害福祉サービス事業者の指定を受けられるとは限りません。
サービスごとの設備基準に加えて、都市計画法、建築基準法、消防法などの確認が必要になることがあります。確認せずに契約すると、追加工事に多額の費用がかかったり、開業が遅れたり、最悪の場合は別の物件を探し直したりすることにもなりかねません。
この記事では、障害福祉事業の物件を契約する前に確認したい8つのポイントを解説します。
障害福祉事業の物件は、なぜ契約前の確認が必要なのか
障害福祉事業の物件には、一般的な事務所や店舗とは異なる確認事項があります。
主な確認事項は次のとおりです。
- 障害福祉サービスごとの設備基準
- 都市計画法上の制限
- 建築基準法上の取扱い
- 消防法上必要となる設備
- 指定権者独自の取扱い
- 利用者の安全性や利便性
- 賃貸借契約上の使用条件
これらは、一つの窓口だけですべて確認できるとは限りません。
障害福祉の指定担当部署では指定基準を確認し、建築担当部署では建築物の用途や必要な手続きを確認し、消防署では必要となる消防設備などを確認します。
「不動産会社から事業所として使えると聞いた」「以前も福祉施設として使われていた」という理由だけで、指定を受けられると判断するのは危険です。
物件の契約後では選択肢が限られるため、契約前に関係機関へ確認することが重要です。
1.希望するサービスの設備基準を確認する
最初に、開設を予定しているサービスの設備基準を確認します。
障害福祉サービスには、次のようにさまざまな種類があります。
- 生活介護
- 就労移行支援
- 就労継続支援A型
- 就労継続支援B型
- 共同生活援助(グループホーム)
- 児童発達支援
- 放課後等デイサービス
- 居宅介護
必要な部屋、設備、面積などは、サービスによって異なります。
例えば、事業内容に応じて、次のようなスペースが必要になる場合があります。
- 訓練・作業室
- 相談室
- 多目的室
- 事務室
- 洗面設備
- トイレ
- 居室
- 食堂
- 浴室
物件全体の床面積が広くても、必要な部屋を確保できなければ、設備基準を満たせない可能性があります。
「広さは十分あるから大丈夫」と判断せず、実施するサービスの基準と物件の間取りを照らし合わせましょう。
2.図面と実際の使用可能面積を確認する
物件資料に記載された床面積と、障害福祉事業で実際に使用できる面積が同じとは限りません。
図面を確認する際は、次の点に注意します。
- 各部屋の用途
- 各部屋の面積
- 柱や固定された収納部分
- 廊下や共用部分
- 他の事業と共用する場所
- 相談室のプライバシー
- 利用者と職員の動線
- 車いすでの移動のしやすさ
- 出入口や避難経路
相談室については、相談内容が外部へ漏れないよう、プライバシーに配慮できる構造になっているかも確認が必要です。
また、一つの建物で複数の事業を行う場合は、設備や区画をどのように分けるかについて、指定権者との協議が必要になることがあります。
不動産会社の募集図面だけで判断せず、寸法が分かる平面図や現地の状況を確認しましょう。
3.用途地域や立地上の制限を確認する
建物がある地域によっては、都市計画法などの関係から、予定している事業を実施できない場合があります。
確認したい主な項目は次のとおりです。
- 用途地域
- 市街化区域・市街化調整区域の別
- 地区計画
- 建築協定
- 自治体独自の土地利用に関する制限
特に市街化調整区域では、予定する用途で建物を使用できるか、慎重な確認が必要です。
また、共同生活援助など住居として使用する場合と、通所系事業所として使用する場合では、確認すべき内容が異なる可能性があります。
インターネット上の用途地域図だけで判断せず、必要に応じて自治体の都市計画担当部署へ確認しましょう。
4.建築確認や検査済証などを確認する
障害福祉事業の物件を検討する際は、建築関係の資料も確認します。
主な資料として、次のものがあります。
- 建築確認済証
- 検査済証
- 建築計画概要書
- 建物の平面図
- 登記事項証明書
- 現在の建物用途が分かる資料
建物の建築時期などによっては、必要な資料が手元に残っていない場合もあります。
資料が見つからないからといって、直ちに使用できないと決まるわけではありません。しかし、必要な確認や手続きが増える可能性があります。
また、建物の現在の用途と、障害福祉事業所として使用する場合の用途が異なるときは、用途変更などの手続きが必要になる場合があります。
用途変更が必要かどうかは、建物の規模や使用方法などによって判断されます。自己判断せず、契約前に建築担当部署や建築士などへ確認することが大切です。
5.消防設備と避難経路を確認する
障害福祉事業所では、利用者の安全を確保するため、建物の状況や事業内容に応じた消防設備が必要です。
必要になる可能性がある設備には、次のようなものがあります。
- 消火器
- 誘導灯
- 自動火災報知設備
- 火災通報装置
- スプリンクラー設備
- 非常警報設備
- 防炎性能を備えたカーテンなど
必要な設備は、建物の構造、面積、階数、収容人数、提供するサービス、利用者の避難能力などによって異なります。
特に共同生活援助や短期入所など、利用者が宿泊する事業では、通所系事業所とは異なる対応が必要になることがあります。
確認の結果、消防設備の設置工事に想定以上の費用がかかるケースもあります。
物件を契約してから消防署へ相談するのではなく、図面などを準備して、できる限り契約前に確認しましょう。
6.賃貸借契約の内容と貸主の承諾を確認する
賃貸物件で障害福祉事業を行う場合は、賃貸借契約の内容も重要です。
少なくとも次の点を確認しましょう。
- 障害福祉事業所として使用できるか
- 契約書の使用目的が事業内容と合っているか
- 指定申請を行うことについて貸主の承諾があるか
- 内装や消防設備の工事ができるか
- 看板や案内表示を設置できるか
- 法人名義で契約できるか
- 転貸や共同使用に該当しないか
- 退去時の原状回復範囲
- 指定を受けられなかった場合の契約上の扱い
口頭で「福祉事業に使ってよい」と言われただけでは、後から認識の違いが生じる可能性があります。
使用目的や必要な工事については、契約書や承諾書など、書面で確認できる状態にしておくことが望まれます。
また、法人設立前に物件を押さえる場合は、個人名義で契約した後に法人へ名義変更できるかも確認しておきましょう。
7.利用者・職員・送迎を考えた立地か確認する
指定基準を満たしていても、実際の運営に適した物件とは限りません。
事業を継続していくためには、次のような点も確認する必要があります。
- 利用者が通いやすい場所か
- 送迎車を安全に乗り降りできるか
- 送迎車や職員の駐車場を確保できるか
- 公共交通機関からの距離
- 周辺道路の幅や交通量
- 騒音や振動への対応
- 近隣住民への配慮
- 緊急車両が進入できるか
- 災害時に安全に避難できるか
放課後等デイサービスなどで送迎を行う場合は、駐車場の有無だけでなく、複数の車両が出入りできるか、利用者が安全に乗降できるかも確認します。
共同生活援助の場合は、スーパー、医療機関、公共交通機関など、利用者の日常生活に必要な環境も重要です。
「指定を受けられる物件」と「安定して運営できる物件」の両方の視点で判断しましょう。
8.契約前に関係機関へ相談する
物件の候補が決まったら、契約前に関係機関へ相談します。
確認先として考えられるのは、次のような窓口です。
- 障害福祉サービスの指定担当部署
- 都市計画担当部署
- 建築担当部署
- 消防署
- 必要に応じて保健所など
- 建築士や消防設備の専門業者
自治体によっては、指定申請の前に事前相談や事前協議が必要です。物件の契約前に相談するよう案内している自治体もあります。
相談するときは、次の資料を用意するとスムーズです。
- 物件の所在地
- 平面図
- 各部屋の寸法
- 建物の面積
- 建築関係の資料
- 物件の写真
- 実施予定のサービス
- 利用定員
- 営業日と営業時間
- 想定する職員数
どの窓口へ、どの順番で確認すべきか分からない場合は、専門家へ相談しながら整理する方法もあります。
物件契約前のチェックリスト
物件を契約する前に、次の項目を確認しましょう。
□ 実施する障害福祉サービスを決めた
□ サービスごとの設備基準を確認した
□ 指定権者へ事前相談した
□ 寸法の分かる平面図を確認した
□ 建築確認済証や検査済証などを確認した
□ 用途変更などの手続きの要否を確認した
□ 消防署へ相談した
□ 必要な設備工事と費用を確認した
□ 貸主から障害福祉事業での使用承諾を得た
□ 指定を受けられなかった場合の契約リスクを確認した
□ 送迎、駐車場、近隣環境を確認した
□ 開業希望日に間に合うスケジュールか確認した
すべての項目について、必ず同じ手続きが必要になるわけではありません。
一方で、「該当するか分からないから確認しない」という進め方は危険です。分からない項目こそ、契約前に確認することが大切です。
物件選びでよくある失敗
障害福祉事業の物件選びでは、次のような失敗が起こる可能性があります。
- 家賃と立地だけで物件を決めてしまった
- 不動産会社の説明だけで契約した
- 以前も福祉施設だったため、そのまま使えると思った
- 必要な部屋や面積が足りなかった
- 用途変更が必要だと契約後に判明した
- 消防設備工事に想定以上の費用がかかった
- 予定していた開業日に間に合わなかった
- 貸主から必要な工事の承諾を得られなかった
- 送迎車や職員の駐車場が不足した
物件契約後に問題が判明すると、解約、追加工事、開業延期など、大きな負担につながります。
物件を早く確保したい気持ちがあっても、確認を省略しないことが重要です。
まとめ
障害福祉事業の物件を契約する前には、次の8つを確認しましょう。
- サービスごとの設備基準
- 図面と実際の使用可能面積
- 用途地域や立地上の制限
- 建築確認や用途変更
- 消防設備と避難経路
- 賃貸借契約と貸主の承諾
- 利用者・職員・送迎を考えた立地
- 関係機関への事前相談
物件は、障害福祉事業の開業準備の中でも、後戻りしにくい重要な判断です。
気に入った物件が見つかっても、すぐに契約するのではなく、必要な確認を終えてから判断しましょう。
障害福祉事業の開業準備全体については、関連記事「障害福祉サービス事業を始めるには?開業前に確認すべき7つのこと」もご覧ください。
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※設備基準や必要な手続きは、サービスの種類、建物、事業所所在地、自治体の取扱いなどによって異なります。実際に物件の契約や開業準備を進める際は、指定権者、建築担当部署、消防署その他の関係機関へ個別にご確認ください。

